数学教育3月号本文の「GRAPESのある風景」では,回転する2つの正三角形において対応する頂点を結び,その直線の交点による軌跡,そしてその発展として,2つの相似な三角形においても同様な考察を行いました。ここでは,授業実践報告とそれら事柄の周辺を述べることにします。
1 2つの正三角形と2つの正方形
2 2つの相似三角形
3 いろいろな発展
4 授業実践報告
5 データファイルのDownload
6 「GRAPESの仲間たち」よりのお知らせ
右図を見てください。△CABと△DEAはともに正三角形とします。このとき,直線BDと直線CEの交点をPとすると, BD=CE かつ ∠CPB=60°が成り立ちます。
このことは,△ABDと△ACEにおいて,AB=AC , AD=AEであることから,示されます。
∠BAD=∠CAE より
△ABD≡△ACE
ここで,気がつくことは,∠BAD=∠CAE が成り立つための条件としては,3点B,A,Eが同一直線上にある必要はないということです。つまり,△DEAは,点Aを中心に回転してもよいのです(右中図)。 そして,このとき,∠CPB=60°より,交点Pは円周上を動きます。
(正三角形.gps→ページ最下部へ)
上記の性質を説明するためのファイルを用意しました。
合同な2つの三角形の表示/非表示切り替えや,対応する角の表示/非表示切り替えなどができます。
(正三角形2.gps→ページ最下部へ)
右図の2つの四角形は正方形です。このとき,直線BEと直線DGの交点をPとすると, BE=DG かつ ∠DPB=90°が成り立ちます。これもよく知られた性質ですね。
この場合についても,3点B,A,Gは同一直線上になくても,同じ性質が成り立ちます。そして,もうひとつ気がつくのは,正方形といいながら,頂点C,Fは使っていないということです。これらを考慮して図を描くと右下図のようになります。BD=CE かつ ∠CPB=90°正三角形で成立していたのと同等の性質が,直角二等辺三角形でも成り立つのです。
正三角形から直角二等辺三角形へ,そして,さらに考察を重ねると,相似な二等辺三角形であればよいことがわかります。
右図において,三角形ADEが点Aを中心に回転するとき,BD=CE かつ∠CPB=一定が成り立つためには,
2つの三角形が相似な二等辺三角形であればよいのです。さらに,∠CPB=一定という条件を満たすためだけであれば,2つの三角形が単に相似であればよいこともわかります。
このとき,点Pの軌跡は円周の一部分あるいは円周全体になりますが,これについての詳しい考察や,実験用ファイルの作り方は,「数学教育」3月号に掲載していますので,そちらをお読みください。なお,3月号本文で紹介しているGRAPESファイルは,ここからDownloadすることができます。(相似三角形.gps→ページ最下部へ)
また,これに相似や軌跡の説明(弦BCの円周角表示)用のボタンを加えたファイルもあります。(相似三角形2.gps→ページ最下部へ)
相似な三角形で調べてきましたが,相似な四角形ならどうなるでしょうか。
四角形ABCDを,AC/AB=c,AD/AB=dとして,点CはABをa°,点DはABをb°それぞれ回転させて描きます。また,四角形AEFGの辺AE,対角線AF,辺AGは,辺AB,対角線AC,辺ADをk倍して,点Aを中心にそれぞれ角θ回転させて描いています。
対応する頂点BとE,DとGを結んだ直線の交点をJとしたとき,点Jの軌跡はどうなるでしょうか。
(相似四角形.gps→ページ最下部へ)
相似な三角形で,対応する頂点を結んでできる直線BDとCEの交点Pと,辺上の対応する点M,Nを結んでできる直線と直線BDとの交点をI,直線CEとの交点をKとします。ただし,2点M,Nは,
BM : MC = DN : NE ・・・(1)
を満たすものとします。
△ADEが点Aの周りを回転するとき,これら交点の軌跡が円であることは当然ですが,ここでは,三角形を回転させずに,辺上の対応する点M,Nだけを動かします。すなわち (1) の関係を保ちながら比の値だけを変化させます。このとき,不思議なことに△PKIの外接円は点P以外にも定点を通るのです。
ではその定点はどこにあるのでしょうか。実はこの定点は,2つの図形が接している点(この場合は,点A)です。交点I,Kが直線上を動くのにともなって,必ず点I,K,Pともう一つの定点を通る円が描けることはなかなか想像できませんが,GRAPESを使うとすぐに見て確かめることができます。
この問題は,2005年第46回国際数学オリンピックメキシコ大会5番の問題の設問を変えたものです。問題設定に相似な三角形の問題と共通点があることが,興味深く思えました。
(相似発展.gps→ページ最下部へ)
いままでは,相似な三角形について調べてきましたが,相似でない2つの三角形では直線BDとCEの交点Pの軌跡はどのような曲線になるでしょうか。もちろん,軌跡は円になりませんが,軌跡の一部は円弧のように見えます。いったいどんな曲線なのでしょうか。
ファイルをDownloadして,自分で試してみてください。
△ABCの形状は,パラメータa,m で,△ADEの形状はパラメータd,n で,また2つの三角形の大きさの比はパラメータkで変えることができます。そして,点Pの軌跡は紫色の曲線として表示されます。
(相似でない三角形.gps→ページ最下部へ)
教材の背景(点Pの軌跡の計算による結果を含む)
相似な三角形の対応する2点を結んだ直線の交点Pの軌跡について,生徒がGRAPESを使って調べる授業を行いました。このときの教材の探求の過程をまとめたので,下記のURLをクリックしてご覧ください。
http://www.seitoku.fujishiro.ibaraki.jp/info/math/soujitokiseki/haikei.pdf (PDFファイル 3.2MB)
指導案とワークシート
この教材を扱った授業を2時間で行ったときの指導案とワークシートを掲載しておきます。(「指導案.doc」と「プリント.doc」をご覧ください。→ページ最下部へ)
授業後のアンケート
授業を行った後に取ったアンケートの結果です。(「アンケート結果.doc」をご覧ください。→ページ最下部へ)
以下は抜粋ですが,発展的な内容であったにも関わらず,生徒が積極的に参加した様子が分かります。
1.次の項目について,あてはまるものに丸を付けなさい (1) 授業に積極的に参加をすることができましたか A はい B いいえ C どちらともいえない 16名 0名 1名 (6) 相似比k=0.5のとき,点Pの軌跡の中心角が120°になることが理解できましたか A はい B いいえ C どちらともいえない 14名 1名 2名 2.今日の授業についての感想を自由に書いてください パソコンで実際どうなるか見ることができたので,理解しやすかった。理解が深まった。(7名) 新しい発見があり,とても楽しかった。(5名) たった2つの図形から,いろいろなことが分かってすごく面白かった。面白かった (5名)
昨年4月から1年間連載してきた「GRAPESのある風景」ですが,今月号をもってひとまずの区切りとさせていただきます。ありがとうございました。
でも終わりではありません。しばらくの充電期間をいただきますが,明治図書さんのご好意で,今後もときどき続編を掲載できるようになりました。次は5ヶ月後の8月号です!